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原生林のコウモリ

遠藤公男著「原生林のコウモリ」改訂版を再読した。これで、この本を読むのは3度目となる。

この本との出会いは、一昨年、母が入院した病院の待合所の本棚だ。本のカバーも失われていて、表紙が汚れていたが、冒頭の文章からぐいぐいと引き込まれた。児童向けという事もあり、全部読み終えるのに2時間もかからなかった。病院から帰って早速アマゾンで購入した。

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この本は、初版が出たのが1973年で、2013年に改訂版が出た。私が購入したのは、改訂版の第2刷だ。初版当時、小学校教師であった著者の処女作である。

冒頭の文章「ミエの眠るホロベ」に引き込まれた。著者は大学受験に失敗して、仕方なく代用教員となり、岩手県の袰部「ホロベ」という戸数8戸の山村の分校に赴任した。ホロベ部落は、八幡平の山深い場所にあり、自動車道路も通じてなく最寄りの鉄道駅から12キロも歩かなくてはならない。

ホロベ分校は、著者が赴任した1955年の1年前に開校したが、最初の教師が1年もせぬうちに逃げ帰ってしまった。そこへ、22歳の著者が赴任した。という事は、生徒の一人である小学1年生のミエは、私の一歳年上という事になる。

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ホロベ部落は、八幡平の山深い場所にあった。

著者は子供の頃から自然や動物が好きで、山奥の分校に自ら希望して赴任したものの、一人きりの教員という事でもあり、将来への不安や様々な葛藤も生まれたようだ。

しかし、分校の生徒が珍しいコウモリを捕まえた事から、コウモリの研究を始める。ミエという1年生の女の子が、暗い夜に教員宿舎までコウモリを持って来てくれた時の情景を書いている。「ミエは黒目がちな大きな瞳で、真っすぐに私を見つめた」これでは、22歳の教師は参ってしまうだろう。胸がキュンとなるところだ。

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ホロベ分校の全生徒8人が、校舎の屋根に乗って笑顔で写っている。撮影者は著者だろう。前列左から2番目のオカッパ頭のかわいい女の子が1年生のミエだろうか。


著者はホロベ分校に5年間奉職して、その間、子供たちや父兄の協力のもと、コウモリの研究を続け、ついにモリアブラコウモリという新種を発見する。

そんな、子供や村人とともに研究した事が、中央の動物学会にも認められ「原生林のこうもり」が刊行された。その後、著者は41歳の時に教職を辞し、動物文学の作家として活躍する。また、作家活動のかたわら、自然保護運動も熱心にされ、ブナなどが生い茂る岩手県の原生林を伐採から守ることにも努力する。

「原生林のこうもり」の書き出しは、10数年ぶりにホロベ部落を訪ねるところから始まる。著者がホロベ分校に赴任した時に1年生だったミエは、集団就職後、病気になって故郷に帰り19歳で亡くなった。

こうもり研究のきっかけを作ってくれたミエの墓参りをするために、ホロベを訪ねたのだ。その時、ホロベ部落は、すでに廃村となり分校も荒れ果てていたが、著者は、ミエの墓に野の花を手向け廃校で一夜を明かす。

私は、この冒頭の哀切極まる描写に引き込まれた。その後の記述は、8人の子供たちとの交流や、コウモリ研究の情熱が生き生きと描かれている。

著者の作品は、動物文学といわれる分野だそうで「イヌワシと少年」「韓国の虎はなぜ消えたか」「アリランの青い鳥」など多数ある。

私は、この「原生林のコウモリ」しか読んでいないが、著者の滅びゆく動物や弱い立場の人々への温かい目線が素晴らしいと思う。アマゾンは使いたくないが、また何冊か注文しようと考えている。


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2015年版のツーリングマップルを見ると、ホロベ牧場が載っていた。ホロベという何ともかわいい地名は、たぶんアイヌ語だろうと想像する。バイクでの日本一周の時に、行きたい場所がまた一つ増えた。

*2月20日に青字部分を加筆し、その他を修正した。


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コメント

少女

若者が幼い女の子、とりわけ疑うことの無い純粋な小学生の子の行動に魅せられてしまうことは、昔ならそこここであったと思います。
 私にも似たような経験があります。その子の行為、かけがえのない純粋さをエネルギーに、学術に打ち込んだ学者の気持ちも分かります。19才で亡くなった少女。これでまた神格化されたのかも知れません。
 これは不思議な、機微ですね。
 

成し遂げる人

トニーさん コメントありがとうございます。
著者は本の後書で、大学受験に失敗したからこそ、ホロベと縁ができ、コウモリの研究ができたので、失敗が良かったと書いています。また、姉からは誇大妄想狂と言われ、早く都会の学校に変われと説教されたそうです。何事でも成し遂げる人は、なかなか人の理解が得られないようです。
さて、プリアンプの試聴記は、今しばらくお待ちください。

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オッカイポ

Author:オッカイポ
1950年生まれの年金生活者です。旅の記録や、オーディオ・音楽・読書、そしてバイクレース等について綴っていきます。